機能性ディスペプシアの症状
機能性ディスペプシアについて
機能性ディスペプシアは、従来は「神経性胃炎」とまとめて呼ばれていましたが、最近の研究により、胃など上部消化管の機能の低下や障害によって現れる症状の総称と定められています。膨満感や呑酸、げっぷ、胸焼け、心窩部痛などの症状が現れ、消化器内科を受診したにも関わらず、胃や食道、十二指腸に潰瘍やびらんなどの器質的な疾患が確認されず、血液検査を行っても全身性の疾患(糖尿病)や内分泌的な疾患(甲状腺の異常)が発見されない場合は、機能性ディスペプシアと診断されます。
機能性ディスペプシアは「Functional Dyspepsia」という英語の訳で、Functionalは「機能性」、Dyspepsiaは「胃の不快症状」という意味です。また、簡潔にFDと呼ばれる場合もあります。
機能性ディスペプシアでは、食事を摂ろうとしてもすぐ満腹になる(早期膨満感)、食後の胃もたれ(食後膨満感)、胸焼け(心窩部灼熱感)、みぞおちの痛み(心窩部痛)などが症状として現れます。そして、これらの症状が半年以上前から見られて、さらにここ3ヶ月以上続いている場合は、機能性ディスペプシアの診断となります。
機能性ディスペプシアの原因はいまだに解明されておりませんが、多様な要因が重なって発症しているのではないかと言われています。特に重大な要因として、以下の4つが考えられています。
- 粘液(胃の防御要因)と消化酵素や胃酸(胃の攻撃要因)のバランスが乱れること
- 胃や十二指腸の痛みを感じる知覚機能に問題が生じて起こる知覚過敏など
- 胃や十二指腸の運動機能に問題が起きること
- 胃や十二指腸を制御する脳と胃を繋ぐ自律神経が、疲労やストレスなどにより問題が生じること
上記以外にも、感染性胃腸炎が引き金となる場合、遺伝的要因、ストレスや不規則な生活、タバコ、アルコールの過剰摂取などの生活習慣的要因によって起こることが分かっています。
機能性ディスペプシアの原因
胃の運動機能には「適応性弛緩」と「胃排出能」の働きがあります。まず、食べ物が食道から流れ込むと「適応性弛緩」が機能し、胃の上半分が緩まります。次に、消化が起こると「胃排出能」が機能し、胃の下半分が緊張して十二指腸へと運びます。また、胃には知覚機能があり、胃の働きの起点となります。機能性ディスペプシアでは、何らかの原因で、胃の知覚機能や運動機能に異常をきたし、多様な症状を引き起こすと言われています。
胃の運動障害
胃の適応性弛緩は、食べ物が食道から運ばれてきた時に、胃の中に留まって消化するシステムです。ここに問題が生じた場合、胃がしっかりと膨張しないため、わずかな量を食べただけですぐに満腹になる早期膨満感や吐き気などの症状が見られます。
また、消化できたとしても、胃排出能が機能しない場合は、消化されたものが胃に滞留して、胃もたれが起こります。
胃・十二指腸の知覚過敏
消化管にある粘膜の状態を検知する知覚センサーが、様々な原因によって過敏な状態になった場合、わずかな刺激を受けただけでも吐き気や胃もたれ、胃痛などの症状が起こります。
過度なストレス・ トラウマ
脳と胃などの消化管の働きには密接な関係があり、両者の連携は交感神経・副交感神経という2つの自律神経が主に担っています。
過去に受けた精神的なトラウマ、過労、ストレスなどによって自律神経のバランスが乱れると、消化管の機能に問題が生じ、機能性ディスペプシアの症状が起こる場合があります。
生活習慣
脂質の多い食事、食べ過ぎ、飲み過ぎ、過労、睡眠不足などの乱れた生活習慣、タバコ、コーヒーやアルコール、香辛料などの嗜好品の過剰摂取が機能性ディスペプシアを悪化させます。
胃酸
胃排出能の衰え、生活習慣や食生活の乱れなどによって、胃酸の分泌量があまりにも多くなり、知覚機能に問題が生じます。また、必要以上に分泌された胃酸が十二指腸に流れ込み、胃もたれや胃痛などの症状が起こりやすくなります。
ヘリコバクター・ピロリ感染症
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、強酸性状態である胃の内部でアンモニアを作り出し、胃酸を中和させながら胃粘膜に生息します。ピロリ菌に感染した場合、胃がんや胃潰瘍、十二指腸潰瘍、慢性胃炎などが発症しやすくなります。
機能性ディスペプシアとピロリ菌感染を併発している場合、ピロリ菌除菌を行えば、機能性ディスペプシアの症状をある程度緩和させることができ、場合によっては治癒も見込めます。このケースでは、機能性ディスペプシアではなく、ヘリコバクター・ピロリ関連ディスペプシアと呼びます。以上のことから、機能性ディスペプシアの症状が見られ、且つピロリ菌感染が確認された方は、最初にピロリ菌の除菌治療を行いましょう。
放っておくと精神疾患にも!?
疾患がもたらす弊害
過去の精神的なトラウマや過労、ストレスなどが原因で自律神経のバランスが乱れると、消化管の機能に問題が生じて機能性ディスペプシアの症状が起こることがあり、生活に大きな支障をきたします。苦痛が続き、仕事や学業などに集中できなくなるため、労働生産性やQOL(生活の質)が大きく損なわれます。
特に高齢者や子どもが発症した場合、早期満腹感などにより食事を十分に摂取できないのは非常に問題です。高齢者は体力が低下しやすいため、低栄養により活動性が下がって引きこもってしまいます。また、成長期の子どもでは発育に悪影響が出ます。治癒するまでの経過には個人差があり、約50%の方は治療開始から5年以内に改善しますが、約40%の方は回復したり悪化したりと波があります。
治療が長期間になるとストレスを感じ、さらに症状の悪化に繋がるという負のスパイラルに陥る場合もあります。QOLが下がって精神的に追い詰められ、うつ症状が現れることもあります。このように胃の調子が悪いと、身体のみならず心の健康にも関わります。
機能性ディスペプシアの
検査方法
吐き気や胃もたれ、胃痛などの機能性ディスペプシアの症状は、別の上部消化管疾患でも現れることが多いです。そのため、糖尿病などの全身性疾患、甲状腺などの内分泌機能の異常、食道や胃、十二指腸に起こるがんや潰瘍、炎症など、他の疾患の除外診断をしなければいけません。
上部消化管の粘膜を調べる胃カメラ検査、胃以外の消化器を調べる腹部エコー検査、全身状態や内分泌機能、炎症状態、感染などを調べる血液検査などを行い、他の病気が発症していないかを確認します。何も疾患が見つからなかった場合、機能性ディスペプシアと診断されます。
当院の負担が少ない
楽な胃カメラ検査
当院では、できる限り負担なく胃カメラ検査を受けていただけるように、経鼻内視鏡検査(嘔吐反射が現れにくい鼻からスコープを入れる方法)を行っています。この検査法により、約90%の方は経鼻内視鏡検査により、鎮静剤を使わずとも苦痛なく検査を受けていただけます。なお、嘔吐反射がひどく、経鼻内視鏡検査でも苦痛が強い場合は、鎮静剤を用いてウトウトとした状態で検査できるため、胃カメラ検査が苦手な方も安心して受診いただけます。
鼻からスコープを入れるのが嫌な場合、鼻腔内が狭くて経鼻内視鏡が入らない場合は、口から経鼻内視鏡を入れて検査を行います。経鼻内視鏡は経口内視鏡より直径が短いため、体への負荷を軽減できます。
機能性ディスペプシアの
治療・改善
機能性ディスペプシアの発症メカニズムは明確に分かっていませんが、精神的・肉体的な要因が重なって起こると言われています。特に、過労やストレス、食事習慣、生活習慣などが深く関わっています。
そのため、機能性ディスペプシアの悪化や発症を防ぐためには、疲れを溜め込まないようにする、ストレスを解消する、食生活を改善することなどが重要です。特に、嗜好品や刺激物の過剰摂取、暴飲暴食、食事の時間が定まっていない、早食いなどは気をつけなければいけません。症状が顕著に現れており、日常生活に問題が生じる場合は、薬物療法も実施します。
生活習慣の改善
- 過度な節制はしない
- 適度な運動を続ける
- 適度に休息する、入浴するなど、
疲労を解消する生活を心掛ける - 禁煙
- 規則正しく十分な睡眠をとる
- 自分に合ったストレス解消法を取り入れる
など
食生活の改善
- 食後すぐに運動しない、寝ない
- 不規則な食事時間を改善する
- 暴飲暴食を控える
- 早食いは控え、食べ物をよく噛む
- アルコールを摂り過ぎない
- 脂質の多いものを避け、栄養バランスを意識する
など
薬物療法
胃の運動機能が衰えている方には、運動機能を向上させるお薬を使用します。また、胃酸が過剰に分泌されていることもよくあるため、その場合は、H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬、ボノプラザンなどの胃酸分泌を抑えるお薬を処方します。他にも、漢方薬を用いる場合もあります。
抑うつやストレスがひどい方には、少しの間だけ抗不安薬や抗うつ薬などを使用する場合もあります。
ピロリ菌に感染している方には、ピロリ菌除菌治療も並行して実施します。